気体の速度分布

気体は温度が高くなると激しく動き回ります。

では、具体的に気体分子の速度はどのようになっているでしょうか?

もちろん、すべてがある一定の速度で進んでいるわけではなく、ある速度分布に従っているはずです。

ここでは、気体の速度分布を計算します。

気体分子のエネルギ

まず、質量mで速度\mathbf{v}で動く質点のエネルギを計算します。

といってもこの粒子のエネルギーは

\displaystyle E=\frac{m}{2}(v_{x}^{2}+v_{y}^{2}+v_{z}^{2})

と簡単に求めることができます。

ボルツマン分布

エネルギーはなるべく低い状態が安定です。

ですから、エネルギEもなるべく低いエネルギを取ろうとします。

では、このエネルギの分布はどうなっているでしょうか?

 

詳しいことは統計力学の教科書に任せますが、答えをいうとボルツマン分布

\displaystyle\exp\left(-\frac{E}{kT}\right)

にほぼ従っています。ここで、k,Tはそれぞれボルツマン定数と絶対温度です。

 

ボルツマン分布をみると、

  • エネルギが高い状態になる確率は指数関数的に減少する
  • 温度が高いとエネルギが高い状態もなりやすい

ということがわかります。

マクスウェル分布

ボルツマンを使えば速度分布も簡単にわかります。

 

dp(v_{x})を速度v_{x}からv_{x}+dv_{x}の間のx方向速度をとる確率とすれば、ボルツマン分布より

\displaystyle dp(v_{x})=C\exp\left(-\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}\right)

となります。ここでCは規格化定数です。

 

規格化定数は全空間でdn(v_{x})を積分したら1になることを利用すれば

\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}dp(v_{x})=C\int_{-\infty}^{\infty}\exp\left(-\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}\right)dv_{x}=1

となり、

\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\exp\left(-\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}\right)=\sqrt{\frac{2kT}{m}}\int_{-\infty}^{\infty}\exp\left(-\frac{x^{2}}{2}\right)dx=\sqrt{\frac{2\pi kT}{m}}

より、

\displaystyle C=\sqrt{\frac{m}{2\pi kT}}

が得られます。

 

以上より、

\displaystyle dp(v_{x})=\sqrt{\frac{m}{2\pi kT}}\exp\left(-\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}\right)dv_{x}

が得られます。

 

もしも、単位体積あたりの気体分子数がnなら、単位体積当たりに速度v_{x}からv_{x}+dv_{x}に当てはまる分子数dn(v_{x})

\displaystyle dn(v_{x})=n\sqrt{\frac{m}{2\pi kT}}\exp\left(-\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}\right)dv_{x}=f_{x}(v_{x})dv_{x}

となります。y,z方向も同様にして

\displaystyle dn(v_{y})=n\sqrt{\frac{m}{2\pi kT}}\exp\left(-\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}\right)dv_{y},

\displaystyle dn(v_{z})=n\sqrt{\frac{m}{2\pi kT}}\exp\left(-\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}\right)dv_{z}

となります。

 

これらを合わせて考えれば、単位体積当たりに速度(v_{x},v_{y},v_{z})から(v_{x}+dv_{x},v_{y}+dv_{y},v_{z}+dv_{z})に当てはまる分子数dn(v_{x},v_{y},v_{z})

\displaystyle dn(v_{x},v_{y},v_{z})=n\left(\frac{m}{2\pi kT}\right)^{3/2}\exp\left(-\frac{mv^{2}}{2kT}\right)dv_{x}dv_{y}dv_{z}

となります。この分布はマクスウェル分布と呼ばれています。

速さの分布

単位体積あたりに速さvからv+dvの間に当てはまる分子数を計算します。

そのために、dvdv_{x},dv_{y},dv_{z}で表します。

速度空間上でvからv+dvの間の体積は

dv_{x}dv_{y}dv_{z}=4\pi v^{2}dv

となります。よって、マクスウェル分布は

\displaystyle dn(v)=4\pi n\left(\frac{m}{2\pi kT}\right)^{3/2}v^{2}\exp\left(-\frac{mv^{2}}{2kT}\right)dv=F(v)dv

が得られます。

熱速度

速度分布の広がりを表す量として熱速度v_{t}を導入すると便利です。

マクスウェル分布はガウス分布なので、速度分布の広がりは指数の部分

\displaystyle\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}=\frac{v_{x}^{2}}{2kT/m}

\displaystyle v_{t}=\sqrt{\frac{2kT}{m}}

で表現されます。熱速度が大きくなると速度の広がりが大きくなるわけです。

式をみれば

  • 温度が高いと熱速度は大きくなる
  • 気体分子の質量が小さいと熱速度は大きい

ということがわかりますね。

速度分布から統計量を計算する

速度分布から平均、偏差などの統計量を計算していきます。

平均速度

平均速度<\mathbf{v}>は等方的なので0になります。

実際に

\displaystyle<v_{x}>=\int_{-\infty}^{\infty}\frac{1}{n}v_{x}f_{x}(v_{x})dv_{x}

を計算すれば0になることがわかります。

 

では、速さの平均を計算します。速さの平均は

\displaystyle<v>=\frac{1}{n}\int_{0}^{\infty}vF(v)dv=4\pi\left(\frac{m}{2\pi kT}\right)^{3/2}\int_{0}^{\infty}v^{3}\exp\left(-\frac{mv^{2}}{2kT}\right)dv

となり、公式

\displaystyle\int_{0}^{\infty}x^{3}e^{-ax^{2}}dx=\frac{1}{2a^{2}}

を用いれば

\displaystyle<v>=\sqrt{\frac{8kT}{\pi m}}

が得られます。軽い質量の気体分子で温度が高いと速く動くことがわかります。

速度の標準偏差

速度の標準偏差は、速度の平均が0なので<v^{2}>となります。

これを計算すると

\displaystyle<v^{2}>=\frac{1}{n}\int_{0}^{\infty}v^{2}F(v)dv=4\pi\left(\frac{m}{2\pi kT}\right)^{3/2}\int_{0}^{\infty}v^{4}\exp\left(-\frac{mv^{2}}{2kT}\right)dv

から公式

\displaystyle\int_{0}^{\infty}x^{4}e^{-ax^{2}}dx=\frac{3}{8a^{2}}\sqrt{\frac{\pi}{a}}

を使えば

\displaystyle\sqrt{<v^{2}>}=\sqrt{\frac{3kT}{m}}

が得られます。

壁に何個の分子が当たるか?

気体分子が単位体積、単位時間当たり何個の分子があたるかは、分子と壁との反応を考える際に重要です。

そしてこの量は乱雑粒子束\Gamma_{x}と呼ばれます。

この量を計算してみましょう。

 

面積1のx軸に垂直な面に速度v_{x}の分子は単位時間1当たり

n(v_{x})v_{x}

あたります。これを速度で積分すれば乱雑粒子束を計算でき

\displaystyle\Gamma_{x}=\int_{0}^{\infty}v_{x}dn(v_{x})=n\left(\frac{m}{2\pi kT}\right)^{1/2}\int_{0}^{\infty}v_{x}\exp\left(-\frac{mv_{x}^{2}}{2kT}\right)dv_{x}\\=n\left(\frac{kT}{2\pi m}\right)^{1/2}=\frac{1}{4}n<v>

が得られます。

圧力

最後に気体が壁に与える圧力を計算します。

速度vの気体分子が壁に跳ね返って速度-vになれば運動量2mvの運動量を壁に与えたことになります。

この与えた運動量の単位面積、単位時間あたりの平均が圧力pになります。

というのも力とは運動方程式から単位時間当たりに与えられた運動量だからです。

圧力を計算すると

\displaystyle p=\int_{0}^{\infty}v_{x}\cdot 2mv_{x}\cdot f(v_{x})dv_{x}=2nm\frac{1}{2}<v_{x}^{2}>\\=2nm\frac{1}{2}\frac{kT}{m}=nkT

となります。これは理想気体の状態方程式にあたります。

著者:安井 真人(やすい まさと)