波の回折

 波の伝わり方を調べる際に3次元波動方程式を解いてもいいのですが、計算が面倒です。そこで、ホイヘンスの原理という単純な法則から、波の伝わり方を計算する方法を紹介します。そして、ホイヘンスの原理を用いて小さな穴から光がどのように進むのかについて解析していきましょう。

回折

 波は障害物があってもその裏を回りこんでいきます。例えば、かべの裏にいても、かべの向こう側の音は聞こえてきます。これを回折と呼びます。光も波だと考えると、壁の裏側に光が回ってくるはずです。しかし、私たちがよく知るように光には影という現象が存在します。なぜ光は障害物の裏を周りこまないのかについて理解するために、波の回折を解析していきましょう。

ホイヘンスの原理

 波動方程式をまじめに解いてもいいのですが、ホイヘンスの原理というのを知っていると簡単に問題を解くことができます。ホイヘンスの原理とは「波面は波面上の各点光源となり、それらの重ね合わせとして伝わる」というものです。つまり、現在の波面上に同一の円を多数書いて、円に接するように書いた線が次の波面になるということです。例えば、平面波なら新しい波は

平面波

となりますし、球面波なら

球面波

となります。確かに正しそうですね。

単スリットの回折

 では平面波が穴に垂直にあたった際にどのように波が進むのかについてホイヘンスの原理を使って調べていきましょう。以下のように穴(スリット)があり、光がスクリーンへ進む状況を考えます。

スクリーン

いま穴をN等分して、そこから光線が点Pへ進んでいる状況を考えています。スクリーンは穴の大きさと比べて十分はなれているので、スリットが点Pへぶつかる際の角度はおおむね\thetaとなります。0番目の点光源の振動を

 \displaystyle f_{0}=\frac{A}{r}\sin(kl-\omega t+\delta)

とすると、i番目の点光源の振動は

 \displaystyle f_{i}=\frac{A}{r}\sin(k(l+id\sin\theta)-\omega t+\delta)\\=\frac{A}{r}\sin(ikd\sin\theta+\theta_{0}),\\\theta_{0}=kl-\omega t+\delta

となります。ここでd=D/Nです。次に、重ね合わせの原理よりPでの振動は

 \displaystyle f=\sum_{i=0}^{N-1}f_{i}\\=\sum_{i=0}^{N-1}\frac{A}{r}\sin(ikd\sin\theta+\theta_{0})

となります。

細かい計算

 これを計算するわけですが、少し難しそうです。しかし、以下のようにとくことができます。まず、

 \displaystyle f\frac{2r}{A}\sin(\frac{kd\sin\theta}{2})\\=\sum_{i=0}^{N-1}2\sin(ikd\sin\theta+\theta_{0})\sin(\frac{kd\sin\theta}{2})

とし、公式2\sin\alpha\sin\beta=\cos(\alpha-\beta)-\cos(\alpha+\beta)を使います。すると

 \displaystyle f\frac{2r}{A}\sin(\frac{kd\sin\theta}{2})\\=\sum_{i=0}^{N-1}\cos(ikd\sin\theta+\theta_{0}-\frac{kd\sin\theta}{2})-\cos(ikd\sin\theta+\theta_{0}+\frac{kd\sin\theta}{2})\\=\sum_{i=0}^{N-1}\left(\cos((i-1/2)kd\sin\theta+\theta_{0})-\cos((i+1/2)kd\sin\theta+\theta_{0})\right)\\=\cos((-1/2)kd\sin\theta+\theta_{0})+\sum_{i=1}^{N-1}\cos((i-1/2)kd\sin\theta+\theta_{0})\\-\sum_{i=0}^{N-2}\cos((i+1/2)kd\sin\theta+\theta_{0})-\cos((N-1/2)kd\sin\theta+\theta_{0})\\=\cos((-1/2)kd\sin\theta+\theta_{0})-\cos((N-1/2)kd\sin\theta+\theta_{0})

となります。さらに同様の公式

 \displaystyle\cos A-\cos B=-2\sin\frac{A+B}{2}\sin\frac{A-B}{2}

を使えば

 \displaystyle f\frac{2r}{A}\sin\left(\frac{kd\sin\theta}{2}\right)\\=-2\sin\left(\frac{N-1}{2}kd\sin\theta+\theta_{0}\right)\sin\left(-(N/2)kd\sin\theta\right)\\=2\sin\left(\frac{N-1}{2}kd\sin\theta+\theta_{0}\right)\sin(\frac{N}{2}kd\sin\theta)

となり、式を整理すると

 \displaystyle f=\frac{A\sin\left(N\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}{r\sin\left(\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}\sin\left(\frac{N-1}{2}kd\sin\theta+\theta_{0}\right)

となります。この式から、

 \displaystyle a(\theta)=\left|\frac{A\sin\left(N\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}{r\sin\left(\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}\right|

の部分が振幅となり振動することがわかります。

スクリーン上の光強度比の計算

 次にスクリーン上の振幅の比を計算します。\theta\to0では

 \displaystyle a(0)\\=\lim_{\theta\to0}\left|\frac{A\sin\left(N\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}{r\sin\left(\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}\right|\\=\lim_{\theta\to0}\left|\frac{A\sin\left(N\frac{kd\theta}{2}\right)}{r\sin\left(\frac{kd\theta}{2}\right)}\right|\\=\lim_{\theta\to0}\left|\frac{AN\frac{kd\theta}{2}}{r\frac{kd\theta}{2}}\right|\\=\frac{AN}{r}

となります。ここで、\thetaが小さい場合、\sin\theta=\thetaとなるテイラー展開の一次近似を使っています。よって、

 \displaystyle a(\theta)=a(0)\left|\frac{\sin\left(N\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}{N\sin\left(\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}\right|

となります。あとは、Nd=Dとし、d\to0を用いれば、

 \displaystyle a(\theta)=\lim_{d\to0}a(0)\left|\frac{d\sin\left(\frac{Dk\sin\theta}{2}\right)}{D\sin\left(\frac{kd\sin\theta}{2}\right)}\right|\\=\lim_{d\to0}a(0)\left|\frac{2\sin\left(\frac{Dk\sin\theta}{2}\right)}{kD\sin\theta}\right|

が得られます。k=2\pi/\lambdaより波数を波長に変換すると

 \displaystyle a(\theta)=a(0)\left|\frac{\sin\left(\frac{\pi D\sin\theta}{\lambda}\right)}{\frac{\pi D\sin\theta}{\lambda}}\right|

となります。光強度は二乗なので

 \displaystyle I(\theta)=I(0)\left|\frac{\sin\left(\frac{\pi D\sin\theta}{\lambda}\right)}{\frac{\pi D\sin\theta}{\lambda}}\right|^{2}

がスクリーン上の光強度の比となります。

なぜ光は波なのに影ができるのか

 光強度比の式より以下のようなグラフを書くことができます。

単スリットの光強度

このグラフからわかるように

 \displaystyle\sin\theta=\frac{\lambda}{D}

となる角度だけ光が広がることがわかります。この式は波長と穴の比により、回折の広がり角度が決まることを意味しています。音の場合は波長がメートルのオーダーです。そのため、障害物があっても音が回折によって伝わるのです。しかし、高音になり波長が短いと音が壁越しに伝わりにくくなります。

 一方、光の波長は数百nmと非常に小さいです。よって、障害物があってもほとんど回り込みません。そのために、影ができるのです。しかし、穴を数百nmと小さくすると回折するようになります。

著者:安井 真人(やすい まさと)