幾何ベクトル

幾何ベクトル

ここでは線形代数の基本である幾何ベクトルについて解説します。これらの内容は高校で習った内容と大差はありません。確認のつもりで学んでいけばいいと思います。

基本

では基本中の基本である幾何ベクトルの定義の紹介からはじめます。

幾何ベクトル

「向きと長さをもった量」を幾何ベクトルと定義する。

そして、矢印の開始点をA、終了点の開始点をBとしたさいのベクトルを

 \overrightarrow{AB}

とかく。

上記の定義から、ベクトルが等しいことについて考えてみましょう。以下の図を見てください。

上の図で\overrightarrow{AB}\overrightarrow{GH}は向きと長さが同じなので、等しいベクトルです。よって、

 \overrightarrow{AB}=\overrightarrow{GH}

となります。ちなみに、\overrightarrow{AB}\overrightarrow{CD}は長さが違うので異なるベクトルです。

 \overrightarrow{AB}\neq\overrightarrow{CD}

また、\overrightarrow{AB}\overrightarrow{EF}は向きが違うので異なるベクトルです。

 \overrightarrow{AB}\neq\overrightarrow{EF}

表記

続いてベクトルの表記方法について紹介します。ベクトルを\overrightarrow{AB}とかくのは面倒ですよね。そこで

 \textbf{\emph{a}}=\overrightarrow{AB}

と太字でかきます。高校では\vec{a}と矢印を付けるのですが、大学ではなぜか太字で書く慣習があります。太字で書いたほうが頭がよさそうにみられるので、太字でかけばいいかと思います。(紙に書く際は、中心となる線を二重にして書きます)

零ベクトル

続いてベクトルにおけるゼロについて解説します。以下に定義を示します。

零ベクトル

長さがゼロのベクトルを零ベクトルといい、太字のゼロで

 \textbf{\emph{0}}

と表記する。

上記の定義から一般に

 \textbf{\emph{0}}=\overrightarrow{AA}

となります。同じ点どうしを結んだ矢印なので、長さがゼロになります。ですから、上記のようなことが成り立つのです。

幾何ベクトルの集合

幾何ベクトルの集まりの表記の仕方を紹介します。

幾何ベクトルの集合

平面のベクトル全体の集合を\mathbf{V}^{2}、空間のベクトル全体の集合を\mathbf{V}^{3}と表記する。

これまでに述べたベクトルは、平面上のベクトルなので、\mathbf{V}^{2}の元となります。また、平面上のベクトルは空間上のベクトルでもあるので、\mathbf{V}^{2}の元は\mathbf{V}^{3}の元でもあります。

幾何ベクトルの和

幾何ベクトルについて学びました。数字があったら足し算や掛け算を導入したくなります。幾何ベクトルにも足し算が存在します。ここでは、この幾何ベクトルの足し算の定義について紹介します。

二つのベクトル

 \textbf{\emph{a}}=\overrightarrow{PQ},\\ \textbf{\emph{b}}=\overrightarrow{QR}

があるとする。このときのベクトルの和\textbf{\emph{a}}+\textbf{\emph{b}}

 \textbf{\emph{a}}+\textbf{\emph{b}}=\overrightarrow{PR}=\overrightarrow{PQ}+\overrightarrow{QR}

と定義する。

要するに、はじめのベクトルにおける始点と足し合わせるベクトルの終点をつなげてまとめるだけです。このように定義すると足し算の基本的な性質(結合法則や交換法則)をもつようになり便利です。

幾何ベクトルの結合・交換法則

上記の和の定義から次の法則が成り立ちます。

交換・結合法則

  • \textbf{\emph{a}}+\textbf{\emph{b}}=\textbf{\emph{b}}+\textbf{\emph{a}},(交換法則)
  • (\textbf{\emph{a}}+\textbf{\emph{b}})+\textbf{\emph{c}}=\textbf{\emph{a}}+(\textbf{\emph{b}}+\textbf{\emph{c}}),(結合法則)
  • \textbf{\emph{a}}+\textbf{\emph{0}}=\textbf{\emph{a}}

 交換法則に関しては以下の図から成り立つことがわかります。

どちらから、足し合わせようが結果は同じになります。

続いて、結合法則は以下の図から成り立つことがわかります。

最後に、\textbf{\emph{0}}を足しても変化しないことは明らかです。長さが0で移動しないので。

実数では当たり前である法則が幾何ベクトルの和でも成り立つことがわかっていただけたかと思います。だから、「和」というんですけどね。足し算の次はいよいよ引き算です。

逆ベクトル

足し算があれば引き算もほしいところです。引き算の本質は「負の数」です。実数の議論から、負の数の足し算が引き算であることを学びました。幾何ベクトルの引き算も同じで、幾何ベクトルの負の数を導入することで引き算を導入できます。以下に幾何ベクトルの負の数である逆ベクトルの定義をのべます。

逆ベクトル

 \textbf{\emph{a}}=\overrightarrow{AB}

の逆ベクトル-\textbf{\emph{a}}

 -\textbf{\emph{a}}=-\overrightarrow{AB}=\overrightarrow{BA}

と定義する。また、

 \textbf{\emph{a}}-\textbf{\emph{b}}=\textbf{\emph{a}}+(-\textbf{\emph{b}})

とする。

ただ、ベクトルの向きを180度逆向きにしたのが逆ベクトルです。

以上の定義から以下のことがわかります。

 \textbf{\emph{a}}-\textbf{\emph{a}}\\=\textbf{\emph{a}}+(-\textbf{\emph{a}})\\=\overrightarrow{AB}+\overrightarrow{BA}\\=\overrightarrow{AA}\\=\textbf{\emph{0}}

逆ベクトルを足したらゼロになるということです。実数と同じですね。

幾何ベクトルへの実数のスカラー倍

ベクトル\textbf{\emph{a}}と実数cとの積を次のように定義します。

スカラー倍

  • c>0のとき、\textbf{\emph{a}}と向きは同じで長さはc
  • c<0のとき、\textbf{\emph{a}}と向きは逆で長さは-c
  • c=0のとき、\textbf{\emph{a}}=\textbf{\emph{0}}

スカラー倍はただ長さが変わるだけです。ただし、負の数をかけると向きが逆になります。

スカラー倍の定義から次の定理が成り立ちます。

スカラー倍

  • c(\textbf{\emph{a}}+\textbf{\emph{b}})=c\textbf{\emph{a}}+c\textbf{\emph{b}},
  • (c+d)\textbf{\emph{a}}=c\textbf{\emph{a}}+d\textbf{\emph{a}},
  • (cd)\textbf{\emph{a}}=c(d\textbf{\emph{a}})

(1)

 c(\textbf{\emph{a}}+\textbf{\emph{b}})=c\textbf{\emph{a}}+c\textbf{\emph{b}}

についてc=2を例に証明します。

この場合、以下のことから成り立つことがわかります。

c<0の場合も同様に図をかけば証明できます。

また、c=0の場合は、明らかです。

 (2)

 (c+d)\textbf{\emph{a}}=c\textbf{\emph{a}}+d\textbf{\emph{a}}

に関しては、c=1,d=-2の場合で証明します。

図をかくと

となり

 (1+(-2))\textbf{\emph{a}}=\textbf{\emph{a}}-2\textbf{\emph{a}}

が成り立つことがわかります。

(3)

 (cd)\textbf{\emph{a}}=c(d\textbf{\emph{a}})

c=3,d=2の場合で証明します。

以下のように図をかくと

成り立つことが確認できます。

著者:安井 真人(やすい まさと)