ベクトル空間

ベクトル空間

いままでベクトルを幾何ベクトルで定義してきました。

つまり、あの矢印です。

矢印だとわかりやすくていいのですが、定義がなんとなくあいまいで応用が小さいです。

そこで、もっと別の視点からベクトルを定義しようというのがベクトル空間です。

幾何ベクトルは感覚が通用しますが、ベクトル空間は感覚があまり通用しません。

というよりとても論理的です。

定義からしっかり理解していくのが重要です。

難しいですが、理解したとき数学の美しさを感じることができます。

ベクトル空間とは

では、ベクトル空間の定義からはじめます。

ベクトル空間

集合\mathbf{V}を考える。そして、この集合の元を

 \mathbf{x},\mathbf{y},\mathbf{z}\in\mathbf{V}

とする。集合\mathbf{V}がベクトル空間であるとは以下の2つが成り立つことをいう。

【ベクトル空間の条件1】

  1. (\mathbf{x}+\mathbf{y})+\mathbf{z}=\mathbf{x}+(\mathbf{y}+\mathbf{z})
  2. \mathbf{x}+\mathbf{y}=\mathbf{y}+\mathbf{x}
  3. 零ベクトルと呼ばれる特別な元\mathbf{o}がただひとつ存在して、\mathbf{V}のすべての元\mathbf{x}に対して\mathbf{o}+\mathbf{x}=\mathbf{x}が成り立つ。
  4. \mathbf{V}の任意の元\mathbf{x}に対して、\mathbf{x}+(-\mathbf{x})=\mathbf{o}となる元-\mathbf{x}が存在する

が成り立つ。

【ベクトル空間の条件2】

さらに、\mathbf{V}の任意の実数\alphaに対して、 \mathbf{x}\alpha倍と呼ばれる\mathbf{V}の 元\alpha\mathbf{x}が存在し

  1. (a+b)\mathbf{x}=a\mathbf{x}+b\mathbf{x}
  2. a(\mathbf{x}+\mathbf{y})=a\mathbf{x}+a\mathbf{y}
  3. (ab)\mathbf{x}=a(b\mathbf{x})
  4. 1\mathbf{x}=\mathbf{x}

が成り立つ。

条件1の解説

まだベクトル空間は完成していませんが、ここまでのところを解説します。

まず、\mathbf{V}がベクトルの集まりだと理解してください。そして、\mathbf{V}の元がベクトルに相当します。

(1)では、ベクトルの和に対する結合法則が成り立つことをいっています。つまり

 \left(\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)+\left(\begin{array}{c}3\\4\end{array}\right)\right)+\left(\begin{array}{c}5\\6\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)+\left(\left(\begin{array}{c}3\\4\end{array}\right)+\left(\begin{array}{c}5\\6\end{array}\right)\right)

ということをいっています。

(2)はベクトルの交換法則が成り立つことをいっています。つまり

 \left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)+\left(\begin{array}{c}3\\4\end{array}\right)=\left(\begin{array}{c}3\\4\end{array}\right)+\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)

のことです。

(3)は零ベクトルの存在を定義しています。最後の(4)は逆元が存在することを述べています。たとえば

 \left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)

の逆元は

 \left(\begin{array}{c}-1\\-2\end{array}\right)

となります。確かに存在しますよね。

とにかく定義をしっかり理解しましょう。では、定義の続きを説明します。次はベクトルの定数倍に関する定義です。

条件2の解説

条件2はスカラー倍に関するものです。

(1)を実際に見ていきましょう。(1)は

 (2+3)\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)=2\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)+3\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)

が成り立つことをいっています。実際に計算してみれば当たり前であることを確認できるでしょう。

(2)は

 2\left(\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)+\left(\begin{array}{c}3\\4\end{array}\right)\right)=2\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)+2\left(\begin{array}{c}3\\4\end{array}\right)

が成り立つことを意味します。当たり前ですね。

(3)は

 (2\times 3)\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)=2\left(3\left(\begin{array}{c}1\\2\end{array}\right)\right)

のことを意味します。(4)も確かにベクトルで成り立つことがわかります。

 最後に

以上の定義が成り立つ集合がベクトル空間です。

この定義からベクトルのあらゆる定義を証明することができます。

決して定義を覚える必要はありませんが、今後、定理を証明する際に使うのでしっかりメモしておきましょう。

著者:安井 真人(やすい まさと)